バンクーバーの閑静な住宅街、Mt.Pleasant エリアの一角。店先の立て看板に取り付けられた鯉のぼりが心地よさそうに風に揺れると、日本人なら、ふと目を留めずにいられない。
この店のオーナー、松村さんは、生まれも育ちも生粋の広島県人。
故郷を離れ、カナダに移民した今も、地元プロ野球チーム「広島カープ」への熱い思いは変わることなく、今年夏に自身がオープンした寿司・弁当専門店を
と名付けた。 Oops 「CARP]紹介記事
今ではこの『CARP』の厨房で寿司を握る姿がすっかり板についた松村さんだが、料理の世界への出発点は、意外にもイタリアンなのだとか。高校生の時、地元のレストランで皿洗いとして雇われて以来ずっと、イタリアンレストランで経験を重ねていった。
大学卒業後も、料理への情熱は冷めず、いったんは企業に就職するも、辞めて調理師免許を取得。 さらに本格的に食の業界でキャリアを積んでいくことになる。
と振り返る松村さん。
当時は、料理を作るより、直接お客さんと接することのほうが好きで、本格イタリアンレストランのフロアマネージャーを経験したりもした。
そんな松村さんがワーキングホリデーでバンクーバーを初めて訪れたのは、28 歳の時。
知り合いも、コネもない異国の土地で自分がどこまでできるのか、試してみたいと思ったからだ。
最初は英語もほとんど話せなかったが、これまで広島で磨いてきた料理の腕と経験を武器に、地元に新しくオープンしたばかりの人気レストランでの採用を勝ち取った。
が、じつはこの店で松村さんが任されたのは、
寿司カウンター
これまでイタリアン一筋だったのが、ここで寿司の握り方を一から覚えることになった。日本とは素材も盛り付け方もまったく異なる、カナダの寿司。素直に美味しいと感じて、むしろイタリアンより興味を持った という。
後に、この店からワークビザのオファーを貰い、さらに移民、そして自身の店をオープンすることになろうとは、この時まだ松村さん本人も、想像もしていなかったに違いない。
つい先日、正面入り口のサインが完成したばかりという、ピカピカの一年生『CARP』。
と、松村さん。
そんな松村さんだからこそ、客はまたここに帰りたくなるのだろう。
かつてカープ黄金時代に活躍した衣笠祥雄・元内野手から贈られたという一枚の色紙が、店内の壁に掲げられている。
そこに書かれているのは力強い
“挑戦”
の二文字。
これからどんな挑戦が待ち構えているのか、楽しみで仕方がないかのように、松村さんの目はいつもキラキラ輝いている。
松村:店を出したいというのは前々から言っていたんです。元同僚の奥さんがロール専門の店を長年やっていたんですけど、リタイアしたいというので、そこの後を継がせてもらう形になったわけです。でもまったく同じロールだけやるのも面白くないので、自分が得意な刺身や握りも出すことにしました。メニューは今後も増やしていく予定です。
松村:実はずっと思っているんですけど、将来はお好み焼き屋をやりたい です。広島のソウルフードですから(笑)。やるからには本格的に設備を整えて、じっくり火が入れられる大きな鉄板でないと。ピザが大好きなカナダの人には、お好み焼きもきっとウケるはず。
広島風のお好み焼きを、いつかここバンクーバーで流行らせたいですね!
松村 友輝(まつむら ゆうき)
1981 年 広島県に生まれる
2009 年 ワーキングホリデーでバンクーバーへ
2013 年 カナダ移民権取得
2015 年 『CARP』をオープン