連絡を受けてから2週間、早速学校での勤務が始まった。特別支援学級なので、私が担任するクラスは全員で6人。毎日登校できている 子は2人だけだった。2人とも、どこから来たかもわからない私に戸惑ったような表情を浮かべた。私は笑顔だけは忘れないように心掛けた。
本当は生徒たちと同じ気持ちだったけれど。
新任教師が来た、ということで全校集会で紹介されることになった。 赴任した中学校には600人ほどの生徒がいる。まともに授業をしたこともないのに、突然こんな大人数の前に立たなければならない。緊張 でよく覚えていないが、英語を勉強するためにカナダに行っていました、ということは話したように思う(そのくらいしか話せる内容が思いつかなかった)。
すると、学校ですれ違う生徒が「カナダの先生だ!」と声を掛けてくれるようになった。
不思議な感覚だった。話し手である私はいっぱいいっぱいだったのに、聞き手の生徒はしっかり受け止めてくれていたのだ。
間違ったことを言えば大変なことになると実感した。先生って大変だ。
まずは自分のクラスの生徒のことを知らなければならない。2人は、まるで正反対の性格だった。Nくんは人懐っこくて、よく話をする子だった。教室を動き回りながら、止まることなく私に質問した。かたやIくんは、自分の席から動くことなく静かにしていた。人の話をよく聞いていて、私がNくんと誕生日の話をしていると、突然自分も9月生まれだと言った。本当は話に加わりたいのだろうなと思った。
特別支援学級の担任は全教科教えないといけない。私は他教科の授業準備に追われながら、でも英語だけは格別の思いを込めて授業に臨 んだ。彼らにもその思いが伝わったのかもしれない。英語の授業になると楽しそうにしているのがとても嬉しかった。おしゃべりなNくんも、耳のいいIくんも凄まじい成長を見せてくれた。英語学習の方法は1つではないということを彼らから学んだ。 (続く)