「ナチュラリスト」 高橋 清氏

「好奇心」こそが、人生を楽しむ最大の宝です。

何かを追及し、探求する気持ちを持ち続けてください。

どんな小さな命でも慈しむ、ナチュラリストの高橋清さん。
動植物に関する豊かな知識を多くの人々に伝えると共に、自然保護にも尽力してきた。
ナチュラリストとして、ひとりの人間として、すべての生き物に誠実に向き合う高橋さんの生き方から学ぶものは大きい。

小学生の頃、遊びで撃った空気銃の弾が頭上に停まったヒヨドリに当たってしまった。

「手の中で息を引き取っていく小さな鳥の感触が、今でも忘れられません」。

命の重さを体験した瞬間だった。

それ以来、たとえ小さなクモでさえも、決して殺生はしないと心に決めている。

カナダの大自然に魅かれて

1966年、家族でカナダに移住。カナダに関する情報もほとんどなかった当時、持ち前の強い好奇心とカナダの自然の素晴らしさに魅かれての思い切っての移民だった。

幸運にも、日本でも従事していた化学工学関連の会社に職を得た。もともと何にでも熱中する性分。全力で仕事に打ち込む高橋さんは、会社からも信頼された。

休日は、家族で山登りやカヤッキング、キャンプなどアウトドアに出かけ、カナダの自然を満喫

大学時代には山岳部のキャプテンを務め、自然や動物について独学で学んでいたが、大学の通信講座を受講して北米の動植物に関する本格的な知識も身に付けた。

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人生の転機

ところが、職場での粉塵の影響で喘息が悪化、ついにドクターの勧告で退職を余儀なくされた。

「医者には、60歳までの命だと言われました。それならば、どうにかしてやろうと思って…」

高橋さんは、不屈の精神で回復のための努力を重ねた。
歩くことで体力をつけながら、漢方医が処方した薬を煎じて毎日飲み続けた結果、

「いったい何をしたんだい?」

と医者が驚くほどに回復した。

一度は会社に復帰したが、58歳でリタイヤ。

「60歳までの命なら、何か人のためになることをしておこう」

と思い、精神病院で患者の付き添いのボランティアを始めた。
「誰かの役に立つということが身に染みてわかりました」。

この頃、Wildlife Rescue Association のボランティアも始める。
怪我などで保護された動物を再び自然に戻す時、いつどこで放すのがいちばん適当か、高橋さんの専門知識がここで大いに発揮されることになった。
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ナチュラリストとしての活動

その後、Burke Mountain Naturalists(バンクーバー近郊で有名な自然保護団体)に加入。
ナチュラリストとしての活動が、本格的に始まった。
絶滅危惧種の鳥を呼び戻すため、たくさんの巣箱をかける。

「鳥の種類に合った巣箱を探すのに時間がかかります。
入口の大きさ、箱の大きさ、巣箱をかける場所など、2~3年試行錯誤してうまくいくものを見つけます」。

手先が器用な高橋さんのガレージは、まるで木工作業所。巣箱はすべてご自身の手作りである。70~80個もの巣箱を各地に設置し、鳥たちが使い終わると次の年のために全部掃除をする。
「大家さんですよね。それも家賃なしの(笑)」。
そんな地道な働きの甲斐あって、バンクーバー近郊の鳥たちは守られているのである。

貴重な命を守るため

1994年、見慣れないコウモリを馬小屋の天井裏で発見した。
博物館に写真を送り同定してもらったところ、この地では絶滅したとされていた

“タウンゼントオオミミコウモリ”

であると判明。

取り壊しが予定されていた馬小屋は急遽修復して保存され、コウモリの数は現在まで徐々に増えてきている。高橋さんの好奇心と知識、そして飽くなき探求心がこのコウモリを絶滅から救った。

現在力を入れているのは、絶滅危惧種“Mason Bee”の保護。

受粉能力の高いこのハチは、果樹園などで重要な働きをしていたが、殺虫剤などの使用により絶滅の危機にある。

高橋さんは、特別製の巣箱を考案、中に新聞紙で作った小さな筒を入れてMason Beeに産卵させ、冬の間自宅の冷蔵庫で保存、翌年春に羽化させて放すという作業を続けている。
小さな虫1匹も、高橋さんにとっては愛おしい存在なのだ。
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不屈のポジティブマインド

実は高橋さん、右目がご不自由である。
1992年から2009年まで、毎年東南アジア諸国への技術援助のボランティアをしていた。
その作業中、発熱性の鉱物の粉が目に入ってしまい、人里離れた場所ですぐに病院に行くこともできず、視力を失った。
ナチュラリストにとっては、大きな打撃である。
遠くの鳥が見えないというハンディは、カメラの望遠レンズで写真を撮り、手元のスクリーンで見て同定するという方法をとっている。

「鳥が見にくくなったので、今度は虫にも興味が出てきましてね」

と、新たな研究の境地も開拓。

「くさっても嘆いても、同じ人生ですから。どうせなら楽しんだ方が良いんじゃないかと思います」

と、高橋さん。
逆境をしっかりと受け止め、穏やかに笑いながら常に前向きに進む。本当の強さとは、こういうものなのかもしれない。

「“好奇心”こそが、人生を楽しむ最大の宝です」。

常に新しいことに目を向け、一つひとつ丁寧に取り組んできた。
ナチュラリストとしての業績は、専門家にも高く評価される。
すべての生命を温かく見守り、“自然”を中心に置いた高橋さんの人生は、豊かさに満ち溢れている。
(取材・文:原 京子)

髙橋 清氏

高橋 清氏 東京都出身。83歳

 

自然保護活動に力を注ぐと共に、動植物に関する豊かな知識を日系コミュニティーに長年に渡りシェアしている。毎月1回行っている日本語でのネイチャーウォークは、今年で23年目を迎えた。

Burke Mountain Naturalists会員
Colony Farm Regional Park Association会員
Minnekhada Regional Park Association名誉会員

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    原京子

    フリーランス・ライター。1994年よりバンクーバー在住。カナダでの5人の子供の子育ての経験を通して、主婦として母としての視点から、タウン誌、雑誌、ウェブサイトなどに情報を発信中。ライターとして、たくさんの方々にお会いできることが人生の宝物。年を重ねるごとに、ますます「人」が愛おしく感じられている。

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