レジュメ配りを始めてから、最初に面接の連絡が来たのは、バンクーバーに数軒ブランチのある有名なカフェからだった。信じられないくらいの運のいい出だしに、
という気持ちはどんどん大きくなる。
面接の日程は、まだ学校に通っている最中だったので、私は学校の先生やクラスメイトに見送られ、放課後そのカフェに向かった。
そこにはマネージャーらしき中年の男性がいた。私は緊張を隠すために笑顔で挨拶をしたけれど、相手の対応がなんとなくぎこちなかった。北米文化って、もっとフレンドリーに挨拶するものじゃなかったっけ?
「今日の面接はキャンセルだよ」
え? 予想と違う展開に頭の中が真っ白になった。どうも授業中に連絡を入れてくれていて、気づかなかった私にメッセージを残してくれたらしい。携帯電話を開くと、言われた通りの未読メール。
理由は
「学校卒業まで採用を待てない」
とのことだった。
勢い込んで臨んだのに、何もできなかった。よく考えるとNice to meet you すら、まともに言ってないんじゃないかな。
あっけない初戦敗退。
カフェ・バリスタへの道が、簡単なものではないことを悟った。
それからもレジュメを配り続けたが、連絡はそうそう来なかった。
2軒目に面接を受けたカフェでは、バリスタとしてではなく、サンドイッチメーカーとしての求人だった。
正直、レジュメを配っても配っても連絡の来ない状況に嫌気が差し始めていた頃で、生活資金の不安もどんどん募っていた。バリスタの仕事を諦めるのは嫌だったけれど、『英語上達のために、英語環境で働く』という目標に絞るべきかもしれないと思い始めていた。
そんな気持ちの揺れが出てきたせいか、面接を受けても「ここで働きたい!」という思いが持てなかった。
きっと言葉の端々に表れていたんだろう。面接中、厳しいことも言われた。今考えれば失礼な態度だったと思う。
でも同時に、どうしてそんなにバリスタとして働きたいのかを考え直すいい機会だったとも思う。