バリスタへの道は突然に
それは、仕事の後、自宅でゆっくりくつろいでいる時のこと。会社のボスから突然連絡が入った。
バンクーバーに数店舗ある支店の、ダウンタウンにある店舗に異動してほしい、という話だった。
しかも、『バリスタ』として。
明日からトレーニングを受けて、翌週からフルタイムで働いてほしいと言われた。何とも無茶な話だが、自分なりに続けていた『勝手にバリスタトレーニング』が、ここで功を奏した。
ボスからは、その店舗は古いビルに入っていて、毎日来るお客さんはそのビルに勤めている常連さんばかり、だから名前を覚えて、仕事はどう?、お子さんは元気?という会話も大事にしてほしいと言われた。
電話口では平静を装いながら、内心は、念願の目標が叶えられるチャンスに、叫びたいほど嬉しかった。
こうして、『バリスタとして英語環境で働く』という目標は思いがけずも達成できた。けれど、ここがゴールではない。
私にとって、英語上達の第1歩になったのは確かだ。お客さんを相手に実践的な会話をする中で、相手が何を言っているかを理解し、適切に返答する、という英語の『瞬発力』を毎日の勤務時間中に反復練習できるからだ。しかも、仲の良い友達とは違い、あくまでも仕事で、お金をもらっているという責任の中に『緊張感』が生まれ、良い刺激になる。またバンクーバーは多民族国家。色んな国の人のアクセントを聞くのは、まさに実践的な勉強だった。
英語が聞き取れない、伝えられないというもどかしさは何度も経験した。たくさん失敗して、自分の英語力に落ち込んでは、結局『やるしかない!』と思い至って、単語の勉強をしたり、英語の動画を観たり、自分なりにできることで自信を付ける努力を重ねる。その繰り返しだ。果てしない地道な作業ではあるけれど、素敵な仲間やお客さんに恵まれたことが何よりの励みになったと思う。
ここまでは、私がバリスタになるまでのお話。私の野心はこれからも続く。この続きは、また別の機会に。