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異色のホラー映画

ゾンビに変わりゆく父親が娘を運ぶ異色のホラー映画『Cargo』  

 どことも知れぬ荒野を、赤ん坊を背負った男が彷徨っている。やがて男の姿が、異形へと変貌していく。人としての心を失いながらも前へ、前へと進み続ける男が目指すものは…? セリフもなく、映像と音楽のみの7分間で描かれる物語は、悲痛でありながら、美しく崇高でさえある。世界最大の短編映画祭TropFest・2013 年オーストラリア大会で発表され、ファイナリストに選ばれた『Cargo』は、その後世界中に拡散されて観る人の涙を呼んだ。ゾンビに変わりゆく父親は、娘を無事に安全な場所へ運ぶため、自らの手を縛り、文字通り、死んでも娘を守って歩き続ける。胸を突かれるラストシーンでは、涙腺崩壊必至だ。
 この究極の7 分間に秘められた、語られなかったストーリーを描いたのが、2018 年版『Cargo』。ストリーミングサービスのNetflix で5 月18 日から配信されている。長編版の監督は、オリジナルの7 分バージョンも手がけたBen HowlingYolanda Ramke。ゾンビ・アポカリプスに見舞われたオーストラリア。自らもウィルスに侵されゾンビ化するまで48 時間という絶望的な状況の中で、幼い娘を守るための手段を必死に模索する父親を演じるのは、イギリスの名優Martin Freeman(BBCドラマ『Sherlock』)。長編版では、父親がゾンビ・ウィルスに侵されるまでの経緯も含め、世界観を更に深く掘り下げつつ登場人物に焦点が当てられ、見応えある人間ドラマとなっている。
 Netflix には、もう1つ、感動必至の異色のゾンビ物として話題になった韓国映画『Train to Busan』(2016)がある。『Cargo』とは対照的に、都市部を移動中の新幹線という閉鎖空間が舞台だ。逃げ場のない閉塞感と何が起こっているか判らない恐怖の中で、娘を守ろうとする父親、妻と生まれてくる我が子を守ろうとする男など、様々な人物が出てくる群像劇だ。韓国のゾンビはイキが良いのか、とても俊敏で怖い。『Cargo』のゾンビ成分が物足りない…という方にはこちらもお薦めだ。

高野 宣李(たかの せんり)
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。
Web 媒体を中心に海外ドラマや映画レビューなどを執筆。
海外ドラマ&セレブニュースサイトtvgroove.com
オフィシャルブログ『usagy のアメリカンTV 気まぐれウォッチング』を不定期更新中。

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