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『Green Book』-55 年の時を経て語られる友情の物語

『Green Book』-55年の時を経て語られる友情の物語

  『夜の大捜査線』(1967 年)から『最強のふたり』(2011 年)まで、人種や階級の違いを越えて結ばれる友情を描いた作品は数多くあるが、Green Bookはまさにその集大成とも言える傑作だ。
 舞台は1962 年のアメリカ。ニューヨークのブロンクスに住むTony Lip(Viggo Mortensen)はナイトクラブの用心棒。腕っぷしが強く、口も達者なイタリア系で、家庭では良き夫、良き父である一方、人種差別意識も強く持っている。そんな彼をアメリカ南部への演奏旅行の運転手として雇ったのが、著名なピアニストで黒人のDon Shirley(Mahershala Ali)。ホワイトハウスでも演奏した天才的ミュージシャンで、生まれも育ちも良く裕福、自宅は何とマンハッタンのど真ん中にある音楽の殿堂・カーネギーホールの上階。どれをとっても全く正反対、衝突する要素しか見当たらない、そんな2 人が互いを受け入れていく過程にはバディものの醍醐味がある。特に2 人の掛け合いは、セリフも、間も、表情も、そのすべてが完璧で、毎回2 人が言い争いを始めるのが楽しみになるぐらい!
 タイトルにもなっている「グリーン・ブック」は、当時ジム・クロウ法下で黒人に対する差別行為が行われていたことから、仕事や旅行で南部へ行く際に、黒人が使える施設を解説したガイドブック。Tony とDon の2 人も、南部諸州の奥深くへ行くに連れ、あからさまな差別や理不尽な扱いに直面する。「サンダウン・タウン」といって、日没後に黒人の立ち入りを禁じている街もあったほどで、当時の黒人差別の苛烈さが垣間見える。実話を元にしたストーリーなので、Tony もDon も実在の人物。2 人の友情は生涯にわたって続き、奇しくも同じ年に連れ立って去るかのように亡くなっている。
 Don との出会いを通してTony の心に生まれていく新しい感情、その変遷を繊細に演じたViggo Mortensen は、次のオスカーの主演男優賞候補リストに早くも名前が上がっている。イタリア語を含む7ヵ国語を流暢に話す彼の才能が見事に結実した役だと思う。Mahershala Ali『Moonlight』(2016)で助演男優賞を受賞しているが、今回のDon 役で2 度目の受賞になる可能性も十分にある。2 人の素晴らしい演技が堪能できる『Green Book』はこの冬必見の1 本だ。

高野 宣李(たかの せんり)
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。

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