現実が映画に追いつく時-『Contagion』
3 月18 日現在、カナダは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国境を閉鎖、外国人の入国を禁止、BC 州やバンクーバー市が非常事態宣言を発令するなどの対策を打ち出している。旅行客の激減に伴い、航空大手は国際線の減便を決めるなど、経済活動への影響も甚大だ。市中では、スーパーの棚から肉、野菜、米、パスタ、缶詰が消え、飲食店もクローズ、通りから人が消えるという状況だ。カナダの首相夫人が新型コロナウイルスに感染、という報道があった3 月13 日から、わずか6 日間でこれだけの変化が押し寄せた。飲食店や旅行関係、観光業界などで働く人達は、突然仕事を失うという事態に直面している。つい1週間前までは普通に生活していたのが信じられない。
そんな状況の中、ここ1週間でNetflix のカナダ視聴ランキングを劇的に伸ばしているのが、『Contagion』(2011年、監督:Steven Soderbergh、出演:Matt Damon、Gwyneth Paltrow、Laurence Fishburne)だ。先週までトップ10 入りしていたと思ったら、1週間でなんと第2 位に! 現実が厳しい時には、できるだけ現実から離れた楽しい作品を観たがるのかと思いきや、敢えて今のこの時期にこれを観るのか!という選択肢である。
ストーリーとしては単純だ。突然現れた未知のウイルスが世界中に感染を広げていく中、ワクチン開発のため、あるいは、愛する人を守り生き延びるため、戦う人々の姿を描いている。綿密な調査に裏打ちされた内容は、非常にリアル…と公開当時から評判だった。そして、この作品を今観てみると、まさに今現在、日々のニュースなどで目にする“細かいリアル” がそこかしこに散りばめられている。例えば、無意識にやっている「手で顔を触る」行為が、いかに感染の危険を伴うか、を解説するシーンがある。今の私たちには耳慣れた注意だが、当時は全く意識したことはなかった。次から次へと運ばれてくる患者を診察し、自らも感染する医師たちの姿や、感染から逃れるため街を出ようとする人々の姿なども、過去の作品なのに既視感を覚えるという不思議さ。これは滅多に味わえるものではない。映画では、発生から4 ヵ月以内でワクチンが開発され、接種が開始されている。今度は、現実が映画を超えて欲しい…そう願って止まない。
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。