感覚を研ぎ澄ませ!-『TENET』
コロナ禍により公開延期や配信サービスへの切り替えとなった作品が数ある中、敢えて劇場公開に踏み切り、全世界で話題を呼んでいる『TENET』(監督:Christopher Nolan、出演:John David Washington、Robert Pattinson、Kenneth Branagh)。劇場の大画面で、音と映像に圧倒されながら映画に没入する楽しさを改めて味わえる、久々の大作映画だった。
『Inception』(2010 年)では街並みを折り畳み、『Intersteller』(2014 年)ではブラックホールの内側や本棚の裏にある5 次元空間…など、驚異の映像表現の数々を見せてくれたNolan 監督だが、『TENET』では更に観客の予想を超えた様々な「仕掛け」が登場する。逆走する人や車、標的から銃の中へと逆進する銃弾、横転した車が起き上がって走り出す、などこれまで見たことがない映像には度肝を抜かれる。
未来に起きる第3次世界大戦を未然に防ぎ、人類滅亡を阻止せよ。これが主人公に託された任務だ。未来の何者かが送ってくるメッセージに従って作られたのが、秘密組織TENET。観客にも、主人公にも、与えられる情報はそれだけだ。謎を追って世界各国を飛び回る主人公と共に、見ている私達も、時間と空間を股にかけた冒険の旅を体験することになる。
いわゆるタイムトラベルものだが、変則的なのは、未来から過去へ戻るには「ジャンプ」ではなく「逆移動」。つまり過去に起こった出来事を、逆行しながら追体験しつつ過去のある時点まで戻る、というわけだ。劇中、この「逆行理論」に関して、物理的な専門用語で解説される部分はある。が、サラッと触れられるだけで、それ以上の言及はない。この説明の雑さは、「そこは『重要ではない』ので、たとえ理解できなくても大丈夫」という、製作側からのメッセージなのでは?と私は受け取った。
なんせ、日本語だって理系は苦手なので、英語で逐一説明されたらお手上げだ。そんな理系音痴の私にも、『TENET』は、手に汗握るSF サスペンス、そしてアクション満載のスパイ映画として十分楽しめた。特に、本物の旅客機を使ったあるシーンの迫力たるや、大画面で観てこその醍醐味だ。
冒頭の、唐突とも言える謎が散りばめられたシークエンス、そして、すべてが終わった時のラストシーン。観終わった直後はあまりの情報量の多さに消化し切れなかったが、1日経ってようやく理解した。その円環の見事さは、美しいとしか言いようがない。
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。