犯罪発生状況、防犯対策
1 概況
(1)カナダは,一般的に治安が良いと言われていますが,犯罪発生率(人口10万人当たりの犯罪認知件数)は日本の約5倍の水準となっています。最近では,ギャング絡みの発砲・暴力事件も発生しているほか,夜間に銃器や刃物で通行人を脅したり,背後から襲い暴行を加えた後に所持品を奪うといった事案も発生しています。特に,都市部で夜間にひと気のない場所に出かける際は注意が必要です。日本人の渡航者,滞在者が犯罪に巻き込まれる事案も発生していますので,防犯対策は日本にいるとき以上に注意が必要です。
(2)空港やホテル,レストラン等で旅行者を狙ったスリや置引き等が多発しているため,パスポートや現金など貴重品を盗まれないよう注意する必要があります。被害に遭った日本人旅行者の多くが,貴重品を入れたバッグをほんのわずかの時間,足元や近くの椅子の上に置いた隙に盗まれています。荷物は常に視界に入る位置に置くよう心がけるとともに,貴重品は必ず身につけて携行するようにして下さい。
(3)カナダでは,米国ほど銃器の所持が自由ではありませんが,米国と国境を接しているため,銃の密輸が後を絶たず,銃器を使用した強盗等も散見され,増加傾向にあります。在留邦人が銃器で脅された被害も発生していますので,万一,強盗等の犯人に遭遇した場合には,相手が銃器を所持している可能性が十分にあることを念頭に,身体の安全を第一に考え,絶対に抵抗はせず,立ち去らせた方が無難です。
(4)現在カナダでは,テロ組織からの指示や支援を受けないものの,そのようなテロ組織のウエブサイト上の情報に接した個人が,過激化してテロを引き起こすケース(いわゆる「ローンウルフ(一匹狼)型テロ」)が発生しており,このようなテロに対する危機感が高まっています。
2014年10月,イスラム過激派思想に感化された被疑者が,ケベック州において兵士を自動車で轢き殺害したテロ事件,同じくオタワ市中心部において守衛兵士をライフル銃で射殺し,連邦議事堂内へ侵入したテロ事件が連続して発生しましたが,これら2つの事件は,イスラム国(ISIL)が米国・カナダ等の連合軍による自らに対する攻撃を批判し,世界のイスラム教徒に対して連合諸国の国民を攻撃するよう扇動する声明を発出した最中の出来事でした。また,本年8月には,オンタリオ州在住の人物が自家製の起爆装置を用いて企てたテロを加連邦警察が未然に阻止したとの事案がありました。
現時点では,日本人や日本権益に対する具体的な脅威情報は無く,カナダを直接の標的とするテロの具体的な情報も把握されてはいませんが,軍・公安関連施設には無用に立ち寄らないようにし,人が多く集まる施設(レストラン,バー,ホテル,ショッピングモール等),公共交通機関等を利用する際には,周囲の状況に注意を払い,安全確保に十分留意してください。
2 防犯対策
* 夜間の一人歩きは避ける。
暗く,人通りの少ない場所は避け,街灯がありひと気のある場所を選んで通る。
* 多額の現金や貴重品は必要な時以外は携行しない。
日本人を含むアジア系観光客から盗んだ財布やバッグに多額の現金が入っていたことに味をしめた窃盗グループが,日本人旅行者を専門に狙っている可能性があります。日本人を狙ったこのような窃盗犯罪を撲滅するためにも,多額の現金や貴重品の携行は極力避けることが肝要です。(カナダでは,少額でもカード決済が普及しています。)
また,万一被害にあった時に備えて,現金や貴重品は分散して所持するようお勧めします。
* パスポートの取扱いに注意を払う。
日本人のパスポートを狙ったパスポート専門の窃盗グループが存在し,現金等貴重品とともにパスポートも盗まれる被害が多発しています。パスポートを携行する際,脱いでいる上着のポケット等に入れたままにせず,必ず身に付けて携行するよう,特に注意が必要です。
* 犯罪者に隙をみせない。犯罪を誘発しない。
犯罪者はまず,多額の現金や貴重品を所持しているターゲットを物色し,そのターゲットの隙を狙います。財布の中身や貴重品を携行していることを他人に知られないように留意することが必要です。また,ひったくりされにくい荷物の持ち方等で犯罪を警戒していることを示すことによって,被害に遭う確率を低くすることができます。
* 面識のない人を安易に信用しない。
カナダの国民性は,一般的に親切ですが,知り合ったばかりの人の家へ安易に行ったり,自動車に同乗したりしないことが賢明です。
* 車を利用する際も盗難に注意する。
車の鍵のこじ開けは,犯人にとって容易なことなので,ハンドルロック棒等を利用し,盗難防止措置を施していることをアピールすることも必要です。 また,駐車する際は割高でも人目のある駐車場を利用することが大切です。記念写真の撮影等でほんの数分でも,車中に貴重品は残さないようにしてください。
* 万一犯罪に巻き込まれた場合には,すぐに警察に届けてください。電話による緊急連絡は911へ。バンクーバー市警においては『Japanese Please』と言えば,日本語でも対応してくれます。
3 都市別の状況は次のとおりです。なお,都市部の治安問題等には共通する部分も多いので,実際に訪問される都市以外の状況にもご留意ください。
* オタワ
日本人が被害に遭いやすいのは,空港,ホテル,レストランやバイワードマーケット(Byward Market)周辺観光スポット等における置引きやスリ等の窃盗犯罪です。また,スレーターストリート(Slater Street)近辺のオフィス街やその周辺では,人通りの少なくなる夜間にコンビニエンス・ストアやガソリンスタンドでの強盗事件が発生していますので,夜間に一人で外出する際には,街灯が多く,人通りのある場所を歩くといった注意が必要です。
バイワードマーケット東側地区のジョージストリート(George Street)に所在する,ホームレスを収容するシェルター「ブースセンター」(Booth Centre)周辺の治安状況は悪いため,昼夜を問わず近づかないようにしてください。
バイワードマーケット地区は,レストラン,バー,ナイトクラブ等が建ち並び,観光客も多く訪れる賑やかな地区ですが,最近ではギャング絡みの発砲・暴力事件等も発生しています。多くは,週末の夜中から朝方にかけて発生しており,深夜の無用な外出を控えることをお勧めします。また,駐車中の自動車のガラスを割られ,車内に置いていた物品を盗まれたり,留守中の住居で金品が盗まれる等の被害も発生していますので,貴重品は人目の付く場所には残さない・置かないなどの注意が必要です。
* カルガリー,エドモントン,バンフ,ジャスパー
アルバータ州(前年比+18%),北西準州(前年比+10%),サスカチュワン州(前年比+10%)の犯罪率は増加傾向にあります。
原油価格下落に伴う失業者が目立ち,カルガリー市では,車上荒らしや不法侵入事案が,前年に比べ約50%増加しています。カルガリー市警は,事件性のないものも含め年間約3千人の行方不明者が発生していると発表しています。
バンフやジャスパー等の観光地や,移動中の飛行機内で,パスポートを紛失するケースが増えていますので注意してください。
トレッキング,ハイキング,スキーやスノーボード等が盛んですが,山間部は天候が変わりやすく,無理な移動は事故につながるので,計画的な移動をお勧めします。また,山火事が通年発生しており,州政府による移動・滞在制限等が予告なく行われることがあるので,留意してください。
* トロント
旅行者や留学生等を狙った窃盗犯罪が多発しています。被害はホテルのロビー及びカウンター,レストラン,空港カウンター等で発生しており,ホテルや空港のトイレの個室の物掛けに掛けた荷物を,扉の外から盗まれた例もあります。レストラン及びナイトクラブ等で,パスポートを身分証明書として携行し,その際に紛失する事例も多く見られます。
なお,麻薬取引やギャング同士の抗争等,銃器を使用した殺人事件等が増加しています。こうしたことに巻き込まれない様,普段から周囲に気を配ってください。 なお,日本食レストランの邦人従業員が夜遅くに帰宅する際に,刃物や銃器を所持した強盗に遭うケースも増加しています。夜間のひと気のない場所での通行は極力控え,また,万一襲われた時は抵抗はしないようお勧めします。
また,トロントの一部(ダウンタウン東地区,フィンチ通り西側等)は,麻薬中毒者や浮浪者等が多く,治安が悪い場所もあるので注意が必要です。
* バンクーバー
旅行者や留学生を狙った置き引き等の窃盗犯罪が,空港,ホテル・ロビー,レストラン,ショッピングセンター,観光地のほか,図書館やカフェでも多発しています。また,最も多発している窃盗犯罪は,観光地等で駐車している車の窓ガラスを割り,車内から物を盗むという手口です。このため,駐車する際は,人目のある駐車場を選び,かつ車内には何も残さないようにしてください。
レンタカーを借りる際に金額未記入のクレジットカードの伝票にサインさせられて,後で多額の請求書が送られる等の被害が発生しています。
麻薬取引やギャング同士の抗争等,銃器を使用した殺人事件等が増加しています。こうした抗争に巻き込まれないよう注意してください。また,夜間のスカイトレイン駅の周辺などで不意に襲われ所持品を奪われたり,銃器や刃物で脅され所持品を盗まれるといった強盗事案が発生しています。夜間のひと気のない場所への外出は極力控え,また,多額の現金や貴重品の携行は極力避けるとともに,万一襲われた時は抵抗はしないようお勧めします。
また,バンクーバーの一部(ダウンタウン東地区,中華街近辺等)は,麻薬中毒者や浮浪者等がたむろしているため治安が悪く,注意が必要です。特別な用事のない限り,このような治安の悪い地区には立ち入らないでください。
2016年には邦人女性が殺害される痛ましい事件が発生するなど,とりわけ凶悪事件の発生率は日本と比較して依然として高い状態にあります。
* モントリオール,ケベック市
レストラン及びバーでの食事の際やイベント会場において,床の上,椅子の背もたれや椅子の下に置いたカバンを盗まれる,または,カバンから貴重品を抜き取られる等の被害が多く発生しています。特に,アルコールを飲みながら仲間と会話に盛り上がっていたり,子供の面倒を見たり,ビュッフェで料理を取るために席を立った隙や,パソコン・携帯電話の操作中など荷物から注意がそれる時が狙われます。
また,人通りの少ない場所で路上駐車をする際に車の外から見えるところに荷物を置くと,車上狙いや車両盗難に遭いやすいので危険です。最近は,レンタカーや,州外・海外からきた車両が狙われやすい傾向があります。さらに空き巣狙いも多く発生しています。
治安当局では,宗教・思想などによる過激化問題を最優先課題と捉え,カナダ連邦警察,州警察及び自治体警察が連携し学校施設や各種民族・宗教コミュニティーとの協力関係を通じて,対策に注力しています。
モントリオールには,北米最大の「暴力につながる過激化防止センター」が設立されました。(2015年3月)
4.テロ対策
カナダにおいて,日本人を直接標的としたテロ事件は確認されていませんが,近年,シリアやチュニジア及びバングラデシュにおいて日本人が殺害されたテロ事件や,パリ,ブリュッセル,イスタンブール,ジャカルタ等でテロ事件が発生しています。このように,世界の様々な地域でイスラム過激派組織によるテロがみられるほか,これらの主張に影響を受けた者による一匹狼(ローンウルフ)型等のテロが発生しており,日本人・日本権益が標的となり,テロを含む様々な事件の被害に遭うおそれもあります。本年8月には,オンタリオ州在住の人物が自家製の起爆装置を用いて企てたテロを加連邦警察が未然に阻止した事案が発生しており,カナダにおいても注意が必要です。
このような情勢を十分に認識して,誘拐,脅迫,テロ等に遭わないよう,また,巻き込まれることがないよう,海外安全情報及び報道等により最新の治安・テロ情勢等の関連情報の入手に努め,日頃から危機管理意識を持つとともに,状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心がけてください。