バンクーバー国際映画祭もいよいよ折り返し地点を越えた10月2日、日本からの注目作の1つ『百円の恋』(100 Yen Love)が、International Villageにて上映(ビートたけし監督『朝』『ニュース』同時上映)され、夜9時45分からというスケジュールにも関わらず劇場には多くの映画ファンがつめかけた。
『百円の恋』(武 正晴監督)は、周南「絆」映画祭において第1回松田優作賞を受賞した足立 紳氏の脚本を元に、実家に引きこもって自堕落な生活を送る32歳の一子(いちこ)が、ある切っ掛けから家を出て100円ショップでバイトを始め、やがて、ボクシングにのめり込んで行く姿を通して、さえない日々の中でもがきながらも何かを掴み、目覚めていく一人の等身大の女性の”生き様”を描き、第27回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門作品賞を始め国内外の映画祭にて主演女優賞、最優秀作品賞など数々の賞を受賞、さらに、第88回アカデミー外国語映画賞の日本代表作品に選ばれるなど、その快進撃が止まらない話題作。
上映が終わったのは真夜中の12時近かったが、ステージに登壇した武(たけ)監督に向けて、観客からたくさんの質問が投げかけられた。30分近く続いたQ&Aの後も、劇場外で監督に感動のメッセージを伝える観客も多く、バンクーバー国際映画祭での第1回上映は大盛況。また10月4日の2回目の上映もほぼ満席で、その人気の高さが伺えた。
Q&A抜粋 <映画のシーンや結末に関連する質問は省きました>
Q:主演の安藤サクラさんは、ボクシングの経験はあったんですか?
武監督:偶然にも、安藤さんは中学生時代にボクシングジムに通っていたことがあって、彼女がこの映画のオーディションに来てくれたんです。
まさか、ボクシングができる優れた女優が日本にいると思っていなかったので、ボクシングのシーンをどうごまかそうかと考えていたんです。
彼女の出現によって、逆にボクシングのシーンだけを書き直しました。
Q:冒頭の安藤サクラさんは本当に太っていたんですか?
武監督:3ヵ月間、ボクシングのトレーニングと食事療法で、筋肉を大きくして体重を増やしました。
お相撲さんみたいな感じです。その後で、絞ってボクサーの体を作ったんです。
Q:最初はダブダブのTシャツを着たり、歩き方も違ってましたが、それも演出ですか?
武監督:はい、歩き方と、そこに「居る」時の感じに一番気を使いました。
注意深く見ていただけるとわかるんですが、映画の前半のほうでは、口で呼吸をしているんですが、後半のほうでは鼻で息をしています。
Q:100円ショップでのできごとは、実際に監督が経験されたことが元になっているのですか?
武監督:脚本家の足立君が、8年前に100円ショップでアルバイトをしていた時に、実際に経験したことから生まれた物語です。
ちょうど今から5年前、僕と足立君は、まったく仕事がなくて、映画の一子さんと同じような状況でした。
このままではいけない、と思って、ある日朝から2人で会って、コーヒーを飲みながらシナリオを作りました。
5年前の今を考えると、ここにいるのが夢のようです。
Q:試合の後、一子はボクサーを続けていくのでしょうか?
武監督:彼女がボクシングに挑戦したのは、32歳までというルールがあったから。
もし何歳になってもずっとできるスポーツだったら彼女は挑戦しなかったかもしれない。
彼女にとっては勝利が必要だったのではなくて、挑戦することが大事だった、ということです。
Q:日本のボクシング映画というと思い浮かぶのが『キッズ・リターン』なんですが、影響を受けた映画などはありますか?
武監督:『キッズ・リターン』はすごい好きな映画ですし、阪本順治監督の『どついたるねん』も大好きです。
『百円の恋』に関して一番参考にしたのは、寺山修司監督の『ボクサー』という映画です。
百円の恋
【監督】 武 正晴
【脚本】 足立 紳
【主題歌】 クリープハイプ「百八円の恋」
【出演】 安藤サクラ、新井浩文、坂田聡、伊藤洋三郎、早織、稲川実代子、重松収、根岸季衣
「百円の恋」公式サイト
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